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富嶽三十六景の図柄別解説

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作品一覧
作品解説
葛飾北斎の凱風快晴  1・凱風快晴(View on a fine breezy day)

この図は、北斎の最大の名画といわれ、世界的にも有名である。「富岳三十六景」の中で、この絵は「神奈川沖浪裏」「山下白雨」とともに三大名作の一つである。
この図を一名「赤富士」という。早朝に見られる現象で、ひろびろとひろがる晴天の青空に鱗雲のたなびき、大富士の景観は、霊山富士の偉容は、
あますことなくわれわれの感動をゆり動かす。これを僅か3色で静かに表現している北斎の技量は、彼の大きな精神的た力であるといえる。
偉人北斎の面目はこの一図につきるといっていい。
葛飾北斎の東海道江尻田子の浦略図  2・東海道江尻田子の浦略図(View from Tago-no-ura Beach at Ejiri on Tokaido Highway)

 田子の浦は駿河湾の今の清水あたり、ここは富士山が正面に眺められる名所の地である。この図は3段の構図から構成されている。
上段は富士の美しい偉容、霞をへだてて、中段は塩田に働く多くの入々の群の浜辺、そして下段の前景には大きく漁舟が描かれ、力を入れて漕いでいる漁夫たちの姿である。
しかも北斎一流の海の波が如実で、それを乗切っていく漁舟の動きが動的ですばらしい。
葛飾北斎の神奈川沖浪裏  3・神奈川沖浪裏(View through waves off the coast of Kanagawa)

三大役物の一つであるばかりでなく、これほど人に知られた傑作はない。大怒濤のさかまく浪の間に、人間の乗る舟のいかに小さく、あぶなげであるか。
スリルに満ちた構図であるが、北斎は逆巻く大浪に対しても、人間の力を強く打ち出そうとしている。それを遠望の富士 が静かに見守っているように見える。
それが北斎の心である。なおこの波の描写は波と富士の画家といわれた北斎を代表するものである。
葛飾北斎の尾州不二見原  4・尾州不二見原(View from Fujimigahara in Owari Province)

 この図は、なによりも奇抜な構図によって世界的に有名である。中央に大きな桶の円があり、その中に小さな富士が遠く見えるという面白さである。
しかもこの桶を作っている桶屋の姿を、安定した場所で絵の中心にしている技巧は北斎の独壇場といっていいであろう。
また桶屋の姿態描写が生き生きと力がこもって切実で、入物画にすぐれた北斎の典型的な傑作といってもいいであろう。俗にこの絵を「桶屋」と呼んでいる。
葛飾北斎の東都浅草本願寺  5・東都浅草本願寺(View from Hongan-ji Temple at Asakusa)

浅草本願寺は一名西本願寺といわれる。築地本願寺の別院である。この図は思い切った本堂を大屋根を右に描 いた奇想が特色である。
その大屋根に瓦職人が働いている。大屋根の大小の対照である。遥か下に浅草の町並が 見え屋根の高かさを思わせる。凧が一つ、これさえも屋根には及ぱない。
しかし泰然たる富士山の偉容は、大屋根に対してゆるぎない位置に描かれている。
葛飾北斎の上総の海路  6・上総海路(View from the sea of Kazusa Province)

この図は風を一杯に帆にはらんだ大船を艘中央に描いただけの図のように見えて、佳作の一つである。というのが、いかにも波静かた上総の海上から水平線と遠い浦廻をはるかに描き、
その中央に富士の姿が、小さいけれど、ここよりどこにも動かせない位置に描かれ、あらためてその美しい姿が印象つよく感じさせている。
水平線を湾曲して描いていることが、大海のひろさを示している。いかにも春の海らしい感じがする。
葛飾北斎の深川万年橋下  7・深川万年橋下(View through under Mannen-bashi Bridge at Fukagawa)

この図は、北斎の遠近法の機構美を発揮した佳作の一つである。思い切った構図、橋を中央に大きく描いた構図は人の目を驚かすといっていい、それでいて、
この構図が少しも奇異でなく、落付いた一幅の絵となっているのは、隅田川の対岸遠く見える富士の姿である。この富士の偉容が、たとえ小さくとも、
この絵の主点となって全体を引きしめ、調整して佳作としているのである。
葛飾北斎の東海道吉田  8・東海道吉田(View from Yoshida on Tokaido Highway)

人物が主である。東海道の吉田は今の豊橋。そこの不二見茶屋から遠く富士を眺めた図で、茶屋に休む旅人たちの姿が、自由自在に如実に描かれて気分が出ている。
ことに富士を見る2入の旅の女の姿が秀逸で、文政時代の北斎の女性描写の特色がよく出ている。茶托をもつ女中の立姿もやはり北斎一流である。男の2人の旅人
のつかれて一休みする姿態も巧みで、いかにも真に迫っている。
葛飾北斎の登戸浦  9・登戸浦(View from Nobuto)

今は工業地帯になってしまったが、登戸は干葉の海岸である。汐干狩の名所で、江戸からも行楽の人々が多かった。タ方に近く、茜色の雲がたなびいている。
富士はまだ春雪にっつまれて彼方に遠く美しく見える。汐干狩の人々のそれぞれの動作が面白く、いかにも愉快げである。海岸の丘陵の上に登戸神社があるが、
海中の鳥居は、この神杜のもので、9月5日の祭礼には神社の神輿が海へ入る。
葛飾北斎の甲州三島越  10・甲州三島越(View from Mishima Pass in Kai Province)

この図は佳作の一つである。この絵で北斎は、白然がいかに大きく、人間がいかに小さいかという、自然尊崇の哲学を表現しているように見える。
富士山の偉容、中央の巨木の大きさを3人の人間が取り巻いてもまだ手が廻らない有様を描写していいる。
構図の面白さ、藍、緑、鼠の3色で、この絵が完成されているところにも、夏の峠という気分が濃厚に出ている。
葛飾北斎の武州千住  11・武州千住(View from Senju in Musashi Province)

 荒川は隅田川の上流をいう。その荒川の北側に干住がある。ここは街道から離れた田舎道であろう。草を刈った籠を馬の背につんだ農夫が川越しに夕空に望む富士を仰いでいる。
今日はよく晴れた富士の姿に、思わず笠をあげて見入っているのであろう。傍らの入江で釣人が2人。1人はやはり富士を見上げ、1人は釣に夢中である。
農夫が子供の土産に亀の子を引きずっているのも一つの田園風景にほがらかな情緒を与えている。
葛飾北斎の相州梅沢左  12・相州梅沢左(View from Umesawasho in Sagami Province)

浮世絵としてあまりに高尚で面白味がないと評する人もあるが、この絵で北斎は自己の澄みきった一つの心境をあらわしている作である。それは何により富士山の美しさである。
46枚中、「凱風快晴」につぐ稜線の美しさを見せた描写であり、この霊山に配して鶴の群を描いている様は、おそらく白々明けの心も澄み渡った北斎の画境といっていいであろう。
なお、画題の「梅沢左」は「梅沢庄」の誤彫であろう。
葛飾北斎の東都駿台  13・東都駿台(View from Surgadai in Edo)

 夏の暑い日の午後である。緑の土坡、樹木がうだるような暑さを見せている。駿河台の坂を、行商人、六部、商人、侍たちが、暑い日ざしの中を上下している。
遠景に見える富士も、夕やけの中に、なにが暑さを見せているのはさすがである。また右手前の家の屋根もあつく乾いた感じである。
佳作とまではいかないが、夏の暑さを描写して、ここまで表現出来るのはやはり北斎である。
葛飾北斎の駿州江尻  14・駿州江尻(View from Ejiri in Suruga Province)

これは風の絵である。北斎は風を描いてこの絵の中にあらゆるものを表現している。道ゆく誰も彼もが一陣の突風に飛ばされんばかりで、身体を支えるのさえやっとといった
姿態描写の巧みなことは北斎ならではの技量である。そして左手の頭巾姿の女の人の懐紙が沖天に舞い上り、旅人の笠も飛ばされている。
いかに強風かが効果的に描かれている。にもかかわらず、富士山だけは平然とし、その描写は稜線のみで白にしたのも何か風のすごさを象徴しているようである。
葛飾北斎の江戸日本橋  15・江戸日本橋(View from Nihonbashi in Edo)

 江戸日本橋は東海道の起点でもあり、江戸の中心であった。その繁華、往来の多いことでも知られ、北斎は日本橋の橋を描かずに、その雑とうを、橋上の人物によって
画面の下の方に描いたところに北斎のすぐれた着想がある。川を縦に見て左右の白壁の倉庫を左右相対的に描き、その頂点に干代田城。左へはずして富士の遠望である。
この絵はまことにこの揃物の中心的な絵である。
葛飾北斎の隅田川関屋の里  16・隅田川関屋の里(View from Sekiya by Sumida River)

 隅田川の上流、その堤を3人の侍が、早馬を疾風のように駈けて行く躍動する絵である。あとは高札場の1本の松の木である。いつものように富士山は静かである。
その静もった周囲の情景の中を3頭の馬がかける。だかその疾風感がある。
3人が殆ど同じ姿態であるのも風のように早い早馬を表現する一っの北斎の技巧といっていい。これが三人三様であってはハヤテの如き感じはなくなる
葛飾北斎の江都駿河町三井見世略図  17・江都駿川町三井見世略図(View from Surugacho in Edo)

 これは、素晴らしい春景色である、沖天には凧が舞い日本橋駿河町の三井見世(今の三越)を両角にした通りの正面に白雪を頂いた富士山が端然と描かれている。
しかも、右手の呉服店の大屋根には3人の屋根屋が、瓦の修理をしている。その姿がいかにも動的で、生き生きとして、この絵をさらに清新たものにしている。
風景に働くものの姿を描き込むことで北斎は、いっも風景白身をわれわれと身近かにしている。
葛飾北斎の青山円座松  18・青山円座松(View at Enza-no-matsu Pine at Aoyama)

この図は構図の妙と描写の細密さですぐれている。富士の左の斜線を長くのばした姿と位置、右から左への流れるようた円座の松の描写が、配置よく心地のいい構図である。
その円座の松の右の傍らで数人の町家の男たちが酒盛りをして遊楽にふけっている。ここにだけ動くものを描き込んでいるので、この絵がまた生きている。
円座の松というのは、青山の竜岩寺という寺にあって、笠松ともいわれていた。
葛飾北斎の相州江の島  19・相州江の島(View from Enoshima in Sagami Province)

その昔は、片瀬海岸から干潮時には江の島まで徒歩で渡れた。江の島の弁財天は江戸時代江戸市民の行楽の地でもあり、信仰の地でもあった。
それらの人々が汐の引 いた砂地を江の島へと歩いていくさまが描かれている。
島を正面に見たての角度からの描写は数多い江の島の浮世絵でも珍らしい。カッキリと島の入家を描いたのに対して、右手相模灘から富士への描写が明るくいい対照を見せている。
葛飾北斎の甲州伊沢暁  20・甲州伊沢暁(View at down in Kai Province)

この図は甲州側から見て実にさわやかな図である。甲州衛道の暁の感じが抜群である。晴れた早朝の空に富士山がくっきりの偉容を見せ、宿場(伊沢は現在石和)から
早立ちの旅人たちは街道をいく。あわただしい朝の宿場風景である。
朝の日が宿場一杯に照っている感じも、北斎の巧みな色調によってよく出ている。それは空のあかね色との対映が見事に描かれているからである。
葛飾北斎の五百らかん寺さゞゐどう  21・五百らかん寺さざいどう(View from Gohyaku Rakan Temple)

五百羅漢寺は本所竪川五つ目にあり、江戸の名所の一つであった。「さざい堂」はその寺内にあった三層の堂宇で、そこから江戸の方の眺望があり、人々はここへ集まった。
その三層楼から眺めた富士で、町家の男、子供連れの女房、丁稚、そして札所廻りなどが、竪川越しに、そして江戸の彼方に見える晴天にくっきりと浮ぶ富士山を楽しんでいる。
これは一種の風俗画でもある。なお五百羅漢寺は現在目黒に移っている。
葛飾北斎の従千住花街眺望の不二  22・従干住花街眺望の不二(View from Senju)

「武州干住」の田園風景とちがい、同じ干住でも干住の花街の裏手を遠く見た街道の賑わいを描いている。今しも大名行列が通り、肩にかついだ鉄砲で、これは鉄砲組の人々であろう。
花街を越して遠くに見える富士の姿が端麗で花街とはいい対照を見る人の心にあたえる。中景の畑には農夫が憩い、大名の行列を眺めているのも、なにか春先きらしい、のんびりした雰囲気である。
葛飾北斎の本所立川  23・本所立川(View fromTatekawa at Honjo)

現在の深川木場と同じく、本所の竪川筋にも木材問屋が多くあった。このあたりを描いた作で佳作の一つである。縦の直線と横の直線を左右からつめて、その間に対岸の問屋街と
手前に働く人物を配して描いた構図は北斎ならではの構図の妙で、なによりもこの直線の技巧は秀技である。
さらに動く人物の生き生きした動作の巧みなことが特に目につくと同時に富士の姿の位置もいい。
葛飾北斎の相州仲原  24・相州仲原(View from Nakahara in Sagami Province)

 大山詣の道にあたるこの仲原の図には、それらしい人々や農夫農婦の姿が、実に配置よく描かれている。無雑作のようでいて決してそうでない。各人物が居るべきところに適確に
配置されている。そこに北斎の技量があるといえる。人物それぞれの描写も巧みである。この人物群に対して、左裾を思い切って長くひいた富士の姿が中央に高く描かれているのが、
またこの絵を調和のとれたすがすがしいものにしている。
葛飾北斎の東海道品川御殿山の不二  25・東海道品川御殿山の不二(View from Goten-yama at Shinagawa on Tokaido Highway)

46枚中華やかな美しさを見せた図で、花見風景としても浮世絵中出色の作といえる。ひょろひょろと丈の高い桜の布置が特徴的で、構図的にも効果を見せその上に、
はるかに品川の海を見る高台で花見するにぎやかな人々の群の描写がいきいきとしていて素晴しく、ざわめきが耳にきこえてくるようである。
そして海の彼方には春の富士の姿が静かに見える。都会のさわがしさに対する、この富士の静かさの対照が北斎の作画の意図といってもいいであろう。
葛飾北斎の諸人登山  26・諸入登山(People climbing Mt. Fuji)

この図には富士山の容姿は描かれていない。峨々たる山中の登山者を描き、風景画というより風俗画といった方がいいかもしれない。
白衣をまとった富士講の人々が白雲をついて登っていく姿態のそれぞれに北斎独特の力強よい筆致が見られ、登山の困難が如実に感じられる。
それぞれの人物の配置もよく、よく動いている。その登山者の心こそ、北斎の富士山に対する尊心のあらわれだと思う。
葛飾北斎の相州箱根湖水  27・相州箱根湖水(View from the lake at Hakone in Sagami Province)

箱根八里の難所で旅人の心を慰める芦の湖辺を描いた作。この絵は整然と描かれているが、画面にかなり多く用いた霞は、
北斎の一つの試みといってよく、これが端正た画面を作り出している。右手には箱根神社が描かれ、それに対して白雲に被われた富士の姿、
まことに静かな情景である。なおこの霞の多用は北斎が大和絵を兼修した、その片鱗がここに現われたものである。
葛飾北斎の身延川裏不二  28・身延川裏不二(Ura Fuji viwed from Minobu River)

いかにも甲州の富士山の裏を思わせる作品である。峨々たるる岩山の間に見える富士山の描写も、きびしい姿で描かれている。
身延川の急流も波を立てて流れている。そのとうとうたる水勢の浪音が耳をふさぐほどにきこえる思いがする。
身廷山への街道か、旅人、駄馬、駕籠の人などの人物の配置も巧みで、旅情があり、これと岩山との対照が中間の雲で仕切られていて、しかも不調和でない。
葛飾北斎の下目黒  29・下目黒(View from Shimo-Meguro)

 江戸時代の目黒は田園であった。この絵は左右相対、シソメトリカルに描かれ、中央に富士山の遠望で絵をしめている。
「神奈川沖浪裏」の図法を段畑で用いた感じである。田夫、田婦、鷹狩りの侍の配置もいい。目黒あたりは、大名の鷹狩りの遊び場であった。
田舎家と段畑の描写がいささか混み入っているが、これは北斎の画法であって、そのために鍬をかついだ農夫が高い松の木と対称的に生きている。
葛飾北斎の武州玉川  30・武州玉川(View from Tama River in Musashi)

この図は佳作の一つである。玉川は多摩川で、江戸近郊では月の名所であった。この絵は3段に絵を区切ったようた構図で、
柴舟の浮ぶ中段の川の流れが中心となっていて、下段の柴を肩にした馬と農夫の描写が情緒的でこの絵をやさしい感じとしている。
上段霞の彼方の富士山は、いかにも厳然と、また泰然と正しく、この絵を力強よいものにしている。手前の樹木と土坡が色彩に複雑さを見せている。
葛飾北斎の隠田の水車  31・隠田の水車(View at a mill at Onden)

現在の明治神宮のあたりに当るが、その昔は江戸の郊外であった。水車小屋が主体であり、それよりも「水」の描写が北斎の芸術を遺憾なく現わしている。
さまざまな水の流れの形態の真がとらえられている。籾をかっぐ農夫2人、流れ水で米をとぐ農夫、亀の子をもっ子供、それらの人物が遠く望む富士を千変万化する
水流の動きとを背景に、心地よい田園の風景を作り上げている。
葛飾北斎の甲州三坂水面  32・甲州三坂水面(Fuji reflected on water at Misaka km Kai Province)

 湖水は河口湖である。三坂峠からの「さかさ富士」を絵にした作で、湖面は波一つなく静かである。その水面に中央の裏富士がくっきりと写っている。
湖畔の民家もひっそりと眠る早暁の感じが、湖水にたった1艘浮かぶ漁舟の姿でも知られる。この「さかさ富士」は北斎の奇智に富んだ構図であり人々の
眼をたのしませたことであろうが、写っている富士山と、実際の富士と幾分の形容が違っている。
葛飾北斎の相州七里浜  33・相州七里浜(View from Hichirigahama Beach in Sagami Province)

これは僅かな緑を用い、あとはすべて藍一色の絵である。しかも画法は若い時代に勉学した狩野派流の筆法を用いているのが注目される。
七里浜から稲村ケ崎への眺望、その上に白雪をいただいた富士の遠望である。左手の島は江の島であろう。ひろがる大洋と岸辺の小波に対して、
遠くの空の入道雲が、一見単調に見えるこの絵に変化を見せて、そこに面白さもある。
葛飾北斎の遠江山中  34・遠江山中(View in the mountains of Totomi Province)

この図は構図の妙によって有名である。左から右へ大胆に対角線に大きな材木を描き、1人は上から、1人は下から木挽が・その巨材を挽いている。
その一家の木挽きの働く姿が如実であるが、これが巨材を支える三又の足場、その間に富士山の姿と、三角形を駆使して作り上げたこの図は、
一種の機構美をわれわれに感じさせ、その間を縫って焚火の煙りと富士を巻く巻雲によって構成されて、この絵をさらにすぐれたものにしている。
葛飾北斎の御廐川岸より両国橋夕陽見  35・御廐川岸より両国橋夕陽見(Sumset view across Ryogoku Bridge from the bank of Sumida River at Oumayagashi)

この図は佳作の一つである。本所の御廐川岸から浅草への渡し舟(今は廐橋)が中心でさまざまな乗合の人々を、さまざまな形態で巧みに描いている。
遠く両国や対岸の浅草側もすべて夕陽のうちに逆光線で描かれ、西の空のタ焼に染った中に富士の姿も逆光線で藍色に染っている。
いかにも実感がある。波の描写は北斎の得意である。岸辺近くのうねりも巧みに舟の行くさまが感じられる。
葛飾北斎の駿州片倉茶園ノ不二  36・駿州片倉茶園ノ不二(View from tea garden at Katakura in Suruga Province)

 この図は、北斎が肉筆画で示すような細密描写で、茶園風景を描いた作であり、46景中でも珍らしい。茶つみの女達の働く姿、
つんだ茶を馬や肩で運ぶ人たち、すべてが働き動くさまが、こと細かに描かれている。まことに「働く人の絵」である。
色彩もさわやかで、入江の水の藍がきいている。富士の姿を中央に、働く人界を見下ろすように泰然と描いたのも、この密画をよくまとめている。
葛飾北斎の山下白雨  37・山下白雨(Summer Shower beneath the Peak)

「凱風快晴」とは違って、これは「動」の絵である。裾野は雷電はためく夏の雨である。しかし富士は毅然としてそそり立っている。
遠くに湧立っ雷雲も夏の日の景観である。この下界、沖天の騒がしさにもかかわらず、富士の偉容の泰然たる姿の偉大さに、
北斎は自己の芸術の誇りを表現しているのではあるまいか。この絵では上端の藍の一文字がすごくきいている。この画集の三大役物の一つである。
葛飾北斎の信州諏訪湖  38・信州諏訪湖(View from Lake Suwa in Shinano Province)

この図は、この三十六景中で甲州、信州側から見た俗にいう「裏不二」の一つであるが、構図的にすぐれた作である。
ひろびろと湖水を描き、左手に高島城のある岬を見せ、そこでは遠くなった富士を遠く見た平板な景観に対して、
思い切った近景の社と二又に割れた巨木で画面の中央を占めさせた構図は、この絵を立体的にもり上げて、なかなかの佳作にしている。北斎の技量ある。
葛飾北斎の常州牛堀  39・常州牛堀(View from Ushibori in Hitachi Province)

 水郷潮来に近い。その牛堀に苫っている荷船を実に細密に描いている。そして船頭の生活の描写もまた如実である。
釜から米のとぎ水を流している1人の船頭が、この静かに苫っている、また静かな水郷の朝の動きである。
またその水音と白鷺の羽音がただ2つの音である。それほど静かさが感じられる霞ケ浦の水郷の景観である。
藍絵の効果が満点である。46枚中で佳作に属している。
葛飾北斎の東海道保土ヶ谷  40・東海道保土ケ谷(View from Hodogaya on Tokaido Highway)

この絵は私の好きな絵である。まことに東海の旅情がそこにある。松並木、それを通して富士の姿。その前の街道の有様がつきせぬ感興をそそる。
休む駕駕籠、そしてどこへ行くのか虚無僧の後ろ姿。これら人物の配置もよく、東海道中の姿をなつかしむ心が湧いてくる。
色彩もさわやかで、松並木の松の配置の見事さが、全体の画面を生き生きとひきしめている。
葛飾北斎の武陽佃島  41・武陽佃島(View from Tsukudajima in Musashi Provice)

 佃島は隅田川の河口の風情のある漁村のある島であり、浮世絵風景画に多く描かれているが、今は地名だけで島ではなくなっている。
中央の島が、その佃島で、漁村も見える。はるかに富士を望む東京湾には、島の附近は荷物や、魚つりの乗合舟、
漁夫のいさり舟などで賑わっている。その賑わいが島の風情を欠く思いもするが、遠い富士の姿が、この絵をひきしめ落ちっいたものにしている。
葛飾北斎の駿州大野新田  42・駿州大野新田(View from Ohno Shinden in Suruga Province)

 東海道の原と吉原の間で、「浮島ケ原」といって沼地あり、芦がしげり風情のあるところとして古来歌枕にもなっている。
その芦を刈った農夫たちが、夕やけの富士を背にして家路についている。5頭の芦をつんだ馬と 芦を背にした農婦が2人、これら人馬の描写が細密である。
ここらは富士が真正面である。白鷺が沼の上を飛んでいく。芦のしげる湿地帯を描いてその情緒がよく出て いる。
葛飾北斎の甲州犬目峠  43・甲州犬目峠(View from Inume Pass in Kai Province)

 甲州街道犬目峠を描いて、秀作の一つである。この絵は構図的に妙をきわめ、左手の富士山に対して、
左から右へと登る街道のカーブが機構的な美しさを示している。峠をのぼる2人の旅人の足どり。
峠の裾の方の2頭の駄馬と馬士と旅人の配置もいい。色調もすっきりとしていて、中間の白雲が効果的で、絵を2分しない調和を見せている。
富士山の裾野の代赭色も、この白雲で生きている。
葛飾北斎の甲州石班沢  44・甲州石班沢(View from Kajikazawa in Kai Province)

 この図を見ると一幅の漢画を見る思いがする。激流の中につき出た巨巌の上で父子の漁師が綱を打っている。 その構図、その人物の配置、
描写にはまことに北斎ならではの緊張感と構図美がある。中景の流れから富士のきびしい姿へのもり上りも、前景と調和がとれている。
漁師の綱の4本の紐が画面に生気を与えている。石班沢は鰍沢あたりの急流であろう。46枚中の佳作の一つである。
葛飾北斎の礫川雪の旦  45・礫川雪ノ旦(View on a morning after Snow at Koishikawa)

 北斎の雪景は珍らしい。今の文京区(もとの小石川)のあたりは高台が多い。その高台の料亭で男が雪見酒を楽しんでいる図で、
白皚々たる満天地のあなたに、これもすっぽり雪をかぶった富士の姿が見える。空は雪晴れである。
茶屋の女たちが、その富士の美しさに手をあげて喜んでいる。中景に流れがあるが多分江戸川であろ。
高台の下の屋並みの描写もさわやかに白然に描けている。
葛飾北斎の東海道金谷の不二  46・東海道金谷の不二(View from Kanaya on Tokaido Highway)

 金谷は東海道の大井川の島田宿と称した宿であるが、この間の大井川を江戸時代は橋がなく、旅人は輦台や肩車で、川人足の力をかりて渡渉した。
その風景がこれである。雨上りか水かさも多い。大名の行列の駕籠や荷物が輦台で渡り、旅人は人足の肩である。
この風景は他の 絵師も描いているが、この絵が最も描写が切実である。対岸の島田宿が見え、その左右に蛇籠がつまれている。
ここまでくると富士の姿も小さく遠くたっている。


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